Appleの小型で低価格の「iPad mini」によって、自社の製品をあらゆる消費者の手に渡すという同社の目標達成が早まることになるかもしれない。
価格は329ドルからで、7.9インチのディスプレイを搭載するiPad miniは、Appleの消費者基盤を大幅に拡大する。また、高い利益を上げている「iPhone」、さらに「MacBook」や「iMac」のシリーズが十分に成熟している中で、同社に新たな成長分野を与えることになる。iPad miniは、より大型の「iPad」よりも34%安い価格で販売される予定だが、同時にAmazonの「Kindle Fire HD」やGoogleの「Nexus 7」といったほかの競争相手に警告を与えている。
初代iPadは、タブレットの見た目や機能を再定義し、かつてのニッチ分野をAppleの大ヒット製品に変えた。iPad miniは革命的であるとはとても言えず、実際には、新たに登場してきたほかの低価格タブレットに対抗するためのものだ。しかしそれでも、iPad miniはタブレットの位置付けを、ぜいたくなガジェットからメインストリームの製品へと変える可能性がある。
Infonetics ResearchのJulien Blin氏は、「329ドルという価格で、より多くの人々がタブレット市場に流れ込むことが予想される」と述べている。
少なくともiPad miniは、タブレットビジネスでのAppleのリードを広げると考えられている。同社がタブレット市場に占めるシェアは既に、ライバル企業のシェアを合計したものを上回っている。だが、「Android」がそれを急速に追い上げている。
Gartnerによれば、世界市場での2012年のAppleのシェアは53%になると予測されており、Androidは41%だという。Gartnerは、Androidが2013年にこの差をさらに詰めると予測している。1年前、Appleのシェアは61%、Androidのシェアは34%だった。
Androidのシェア拡大は、サムスンの「GALAXY Tab」や「GALAXY Note」シリーズ、ASUSの「Transformer」タブレット、Google独自の「Nexus 7」を含む、さまざまなベンダーの製品を背景に実現したものだ。Amazonは自社の「Kindle」タブレットに、高度に改造したAndroidを使った。
iPad miniは、主に低価格タブレットに起因するAndroidの勢いを止めるかもしれない。より手ごろな価格のタブレットに関するAppleの試みは、予算を気にする消費者や、より小型でポータブルなデバイスを探しているが、以前はiPad以外の選択肢を考えなければならなかった人々にとっては魅力的だろう。
Raymond JamesのアナリストのTavis McCourt氏によれば、12月のiPad miniの販売台数は500万台になる見通しだという。
売るための価格設定
Appleの329ドルという開始価格は、同社の定番の戦略に沿ったものだ。それは、自社の製品に競争相手よりも特別に高い価格を付けることで、市場の低価格帯を避け、人々が妥協の末に手に入れるものではなく、ぜひ買いたいと思う製品としてのイメージを保つという戦略だ。
それに対して、初代「Kindle Fire」のアップデート版の価格は159ドル、Kindle Fire HDは199ドルからだ。GoogleのNexus 7(製造はASUS)も199ドルである。ただし、メモリを増やし、セルラー接続に対応したアップデート版(値段も高くなる)が、Googleが来週開催するイベントで発表される見込みだ。Barnes & Nobleは、7インチの「NOOK HD」を199ドルで販売している。

代替タブレットが非常に魅力的だったのは、iPadの最も安いモデルよりもさらに200ドルか300ドル安かったからだ。しかし今、価格の違いは大幅に小さくなった。
iPad miniは、Appleのライバルにとって命取りにはならないものの、その価格設定は、そうした低価格の選択肢から顔を背けるのに十分なほど魅力的だ。一部のアナリストらは、iPad miniは、既に大型のiPadを所有している家族に人気になるとしている。より価格が手ごろなiPad miniは、2台目のタブレットとして家庭で使われるようになるというのが、アナリストらの考えだ。
タブレットへの需要はこの数年で既に急増しており、iPadがそれに拍車をかけている。Deloitteによれば、タブレットの普及率は米国で27%に達しているという。
標的とされるライバルたち
Appleでマーケティング責任者を務めるPhilip Schiller氏は、iPad miniをライバル製品と比較する際に一切手加減しなかった。
Schiller氏は、「ほかの企業はより小型のタブレットを作ろうとしてきたが、失敗している」と述べてから、Nexus 7の写真を見せた。
7.9インチという大型のディスプレイがありながら、サイズは小さくなっていることで(これはより薄型のデザインと、狭いベゼル幅によって実現している)、iPad miniはより見やすくなっているとSchiller氏は述べた。
Appleの最大の強みはそのアプリだ。App Storeには、70万件もの「iOS」アプリと、27万5000件のiPad専用アプリがあって、iPadをライバル製品よりもはるかに多目的なものにしている。
今タブレットを買おうとしている消費者は、今でもその圧倒的多数がiPadを検討している。ChangeWave Researchが最近実施した調査によると、タブレットを今後90日以内に買おうとしているとした人の65%が、iPadを検討していると答えた。一方、次に人気だったNexus 7は12%だった。iPadをほしがっている人々のうち、12%がiPad miniを考えていると答えた。
目的は利益の獲得
Appleの329ドルという開始価格は、同社がまだそこから利益を上げる気があることをはっきり示している。
当たり前のことに聞こえるだろうか。しかしAppleのライバル企業の中には、そうした戦略を採っていないところもある。AmazonがKindleブランドの電子書籍リーダーとタブレットを原価に近い価格で販売し、最低限の利益か、あるいは損失を出しながらなんとかやっていることは良く知られている。それはAmazonが、長期的には商品や電子書籍の販売で稼げることを理解しているからだ。
同様に、GoogleがNexus 7を販売しているのは、それが利益をもたらすからではない。同社のコアビジネスである、検索結果でのディスプレイ広告から上げている多額の利益と比べれば、Nexus 7からの利益は極めて少ない。そしてGoogleは自社のタブレットに積極的な価格設定をすることで、市場での足がかりを得ている。
しかしサムスンは、Appleと同様に、ハードウェア販売から利益を上げており、非常に多くの選択肢を提供している。しかしそのハイエンドタブレットが直面しているのは、成功と失敗の入り交じった状況に過ぎず、特に米国での売れ行きは思わしくない。結局のところ、同じような価格のiPadでより多くのことができて、より多くのアプリを使えるのなら、どうしてハイエンドのタブレットを買うだろうか。
Amazonが2011年に199ドルのKindle Fireを発表した時、消費者の心をとらえたのはそこに理由がある。同社は、タブレットの価格に対する期待に変化を起こし、低価格の小型タブレットの波を引き起こした。独自の路線を進むことで昔から知られているAppleも、その波に乗らざるを得なくなった。
OvumのアナリストのAdam Leach氏は、「Appleは近年では初めて、ライバル企業からの市場圧力に対応している。これはAppleの経営方針の根本的な変化を反映している」と述べている。
より確かなことは、この製品に対する需要があることだ。小型のiPadは、タブレットマーケット全体に大きく貢献する可能性がある。IHSは、iPad miniだけで、2012年から2013年にかけて7インチタブレットの市場を2倍にすると予想している。
近年のApple製品のほとんどが、発売の際に大きな興奮を巻き起こしてきた。iPad miniがその伝統から外れることはないだろう。
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